1: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 18:48:24.28 ID:BEDtYInZ0
スペック
>>1当時二十歳♀
医者 五十半ばくらい?
会長 某大手水産会社の会長 年齢は分からないけど爺
2: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 18:49:57.24 ID:9BsWPRnC0
さあ、語り給え

3: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 18:55:52.42 ID:U1SbWK/s0
ありがとう
wifi調子悪くてID変わったかな?

自分は母子家庭で、五人兄弟。
高校で必タヒにバイトと勉強をして
地元ではそこそこ難関で有名な大学に入った。
成績が良かったから返済不要の奨学金ももらえた。
大学生になってバイトも時間を増やせた。

それでも生活は楽にならない。
一番下は小学生の妹、当然お金はかかる一方だった。

5: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 19:02:50.53 ID:U1SbWK/s0
水商売も経験した。
授業に響かない程度に沢山バイトをいれた。
私大だから授業料は一年で100万近く、
それに兄弟の生活費。
母のパートと私のバイトでは賄えなくなっていた。

そのストレスで母は私をよく責めるようになった。
お金が足りないこと、水商売に手を出したこと。
どうすればいいのか分からなかった。

そんな時、家庭教師を始めることになった。

7: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 19:10:29.88 ID:U1SbWK/s0
家庭教師先として辿り着いた家は正しく豪邸だった。
インターホンを鳴らすと
身なりの整った小綺麗なおじさまが顔を出した。

先生ですね、愚息ですがどうぞ宜しくお願い致します…

貧しく、両親はお互い不倫に夢中で
ろくに躾も受けてこなかった私は気が引けた。
品性って初見でも痛いほど感じるよね。

9: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 19:18:16.17 ID:U1SbWK/s0
愚息、と紹介されたが息子さんは
充分すぎるほど努力家で聡明な子だった。
3つ程しか歳は変わらない。

ノート一杯に書かれた予備知識を前に
なぜこんな子が家庭教師を、と教えるのを躊躇った。

90分はあっという間だった。
「先生、食事でも如何ですか?」
先程のおじさまが手招きをした。

8: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 19:11:20.90 ID:D5qHeViv0
おっさん頑張れ

11: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 19:24:48.29 ID:U1SbWK/s0
おっさんではない(´・ω・`)

リビングに向かうと、既に食事が整っていた。
お寿司だった。
息子のA君が
「こんなもので申し訳ありませんが」と謙遜した。
普段何を食べているんだ…

食事を摂りながら聞かれるがままに自分の話をした。
父親がいないこと。
兄弟が沢山いること。
沢山勉強したこと…

おじさまもA君も終始頷きながら話を聞いてくれた。

14: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 19:30:38.13 ID:U1SbWK/s0
無事に家庭教師の契約も結べ、お腹一杯になって帰宅した。
余談だが家のなかにエレベーターがある光景が忘れられず
大学の友達に話したら「うちにもあるよ?」と返ってきた。

その週末、派遣のバイトで
ホテルの清掃に向かうことになった。

16: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 19:35:16.51 ID:U1SbWK/s0
ホテルに着いて色んな指導を受けて
清掃に取り掛かった。
婚礼によく使用される有名なホテルで
初めて足を踏み入れたことに感激した。

「ちょっと、この靴の汚れを取れる場所知らない?」

不意に白髪のお爺さんに声を掛けられた。

17: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 19:42:30.51 ID:U1SbWK/s0
「昔はそこらに靴磨きってのが居たんだけどね」

よく見ると鳥の糞が靴にべったりだった。
「お取りしますよ」
洗剤と歯ブラシで擦ると糞はあっさり取れた。

お爺さんは目を丸くして
「女の子にこんなことさせて申し訳ない、ありがとう」と
封筒を手渡して去った。

封筒には12万円入っていた。

19: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 19:50:56.67 ID:645DCdan0
住む世界が違う…バブル期だったらありえるかな

20: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 20:00:49.38 ID:U1SbWK/s0
実話なんだ

返そうにもどこの誰だか分からない。
いつ会えてもいいようにそのまま持ち歩いた。

それから平日は家庭教師、
週末はホテル清掃に勤しんだ。

父親がいないことを知って以来、
家庭教師先では頻繁に食事に連れていってもらった。
有名なフレンチ、和食、
どれも一人では手の届かないレストランだった。
本当に良くしてもらった。

22: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 20:28:26.65 ID:U1SbWK/s0
2ヶ月ほど経って、
ホテル前でまたあの白髪のお爺さんに再会した。

お金を返す機会だと駆け寄った。
「あの、以前靴を掃除したものですが」
ああ、と笑ってお爺さんはお辞儀をした。

「あの時はありがとう」
「いえ、あの、お金を返したいんです」
「大した額じゃないからくれてやるよ」
お爺さんはまた封筒をくれた。

23: 名も無き被検体774号+ 2012/01/13(金) 20:38:56.34 ID:U1SbWK/s0
というか、一方的に封筒を押し付けて
またどこかに行ってしまった。

今度は名刺が入っていた。
某水産会社の会長だということ、
彼のものであろう電話番号とアドレス。

その夜早速連絡をいれた。

29: >>1 2012/01/14(土) 00:16:02.76 ID:8utZspTU0
電話をしてもいいものか分からなかったから
とりあえずメールを作成した。会長さんはauだった。

『靴磨きの>>1です。勝手に連絡をしてすみません。
お金の件、せめてお礼をさせて下さい』

貧乏だったからお金を借りたり戴いたり、
奢られたりすることは、
真っ当な理由がないとじゃないと嫌な性分だ。
よく友人には損な性格だね、と笑われる。

30: 名も無き被検体774号+ 2012/01/14(土) 00:25:54.67 ID:YAnjD48C0
>>29
貧乏性というやつだな 何となくわかる

まして靴磨いたぐらいで大金貰えるなんて、
普通何か裏があると思うよな

31: >>1 2012/01/14(土) 00:26:37.70 ID:8utZspTU0
>>30
ほんとそう

すぐに返事は届いた。
時間は21時くらいだっただろうか。

『今 接待が 終わった ところです。
御丁寧に 連絡嬉しかったです
明日は 空いていますか?』

会長さんは独特な空白の使い手だった。
―明日は空いていますか?

「失礼ですが、どのような意味ですか?」
必タヒに考えても分からなかったからそう送った。

32: >>1 2012/01/14(土) 00:35:21.18 ID:8utZspTU0
「興味が あるのです 大丈夫ですから
明日の 19時にホテル○○のロビーにおいで 下さい」


怖い、行きたくない。
けどお金も返したい。
悩んだ末、意を決してホテルに向かった。

33: 名も無き被検体774号+ 2012/01/14(土) 00:43:32.92 ID:YAnjD48C0
肝座ってるな

俺ならチビリそうだ

34: >>1 2012/01/14(土) 00:52:36.63 ID:8utZspTU0
お金が大金だったからね(;´・ω・`)

ホテルがホテルだったため、
洋服は一張羅を選んだ。
出迎えてくれた会長はカラフルなスーツで、
ドン小西を彷彿させた。

「中華は好きかな?ここのは殊においしいよ」

部屋に直行するのかと思い込んでいた私は拍子抜けだった。

35: 名も無き被検体774号+ 2012/01/14(土) 00:54:19.80 ID:3Tqs3b430
現実離れした話だなwww

>>1がかわいいから釣られてやるか

36: >>1 2012/01/14(土) 01:32:23.96 ID:8utZspTU0
本当なんだよう…
でも釣りと思ってても読んでくれて嬉しい

食事は最高だった…が、
今後のことを考えると不安で胸がいっぱいになった。

会長は色んな話をしてくれた。
大体のホテルは名前を言うだけで部屋が取れること。
大学時代のこと。
仕事のこと。プライベートなこと。

そして、娘さんのこと。

42: >>1 2012/01/14(土) 03:54:59.79 ID:Bbhflozx0
スマホの調子悪くてID変わるけど1です
保守ありがとう

「え…!」
携帯の液晶に映る女の人をみて、
思わず声をあげてしまった。

>>1さんに似てるだろう?」
鏡を覗いたかのようにそっくりだった。
娘さんに似ているからここまでしてくれるのかな、と
ぼんやり考えた。

「今お幾つなんですか?」
「…亡くなったんだよ。生きていたら、えー幾つかな?」

43: >>1 2012/01/14(土) 04:06:45.16 ID:Bbhflozx0
「ご逝去されたんですか?あの、すみませんでした。
何も知らずにずかずかと」

なんて地雷を踏んでしまったのだと後悔した。
傷付けてしまっただろう。

「君がそんなこと知っていたら警戒しちゃうよ。
生きてなくとも自慢の娘なんだ。別嬪だろう?」

私に似たのかな、と豪快に笑う彼が
会長である理由が分かった気がした。

44: >>1 2012/01/14(土) 04:12:28.05 ID:Bbhflozx0
結局ここでも私は身の上話をするはめになった。
同情されることは好まないので、
なるべくあっさり事情を話したつもりだったけど、
話し終える頃には彼は目に涙を貯めていた。

「…」ぐすん
「すみません、そんな大それたことでもないのに…」
「アヤ(仮名です)、苦労したんだなぁ…」
「アヤ?」
「娘の名前だよ」
「??」
「毎月少額でいいから振り込ませてくれないか」

45: >>1 2012/01/14(土) 04:18:05.37 ID:Bbhflozx0
突然の申し出に硬直した。

「お気持ちは嬉しいですが
そうしていただく理由が私には…」
「何を言うんだ、君はアヤに似ている」
「理由になりませんよ」

「娘に似た子が苦労をしているのに放っておけないよ、
放っておきたくないよ!」
「でも無償でそれは流石に」
「じゃあ…仕事を与えよう」

名案だと思った。

46: >>1 2012/01/14(土) 04:26:06.59 ID:Bbhflozx0
「よし、これなら就労として手伝えるね」
「どんな仕事ですか?」
「ここに電話番号を書いて。後で秘書から連絡させるよ」

どうやら秘書とは、
ずっと一緒というわけでもないらしい。

その後、何事もなかったかのように
タクシー代を渡され解散となった。

「今日は本当に楽しかった!」と連呼する会長を見ると
何だか本当のお父さんのように思えた。

47: >>1 2012/01/14(土) 04:31:52.60 ID:Bbhflozx0
タクシー代として10万円も入っていて
また怒涛の謝罪とお礼のメールを入れることとなった。

貧乏だけど、誰かから同情されて、
恵んで貰いたいと考えていた訳ではない。
貧乏だからこそ、
プライドを持って自らの手で稼いでいきたい。

だから、今回の出逢いはうろたえることの連続だった。

そう言えば今まで誰かに頼ったことはない。

51: >>1 2012/01/14(土) 10:09:25.62 ID:Bbhflozx0
それから暫くは大学もバイトも忙しい日々の連続で、
会長の「就労」とやらも忘れかけていた。

家庭教師は相変わらず「重要」と
赤ペンでびっちり埋まったノートとのにらめっこで、
自分のレポートは〆切との追いかけっこだった。

学費はどうにか間に合いそうだったが、
母からの追い討ちは手を緩めてくれなかった。

52: >>1 2012/01/14(土) 10:18:11.26 ID:Bbhflozx0
母もまた、金銭面では
誰かにすがることをしてこなかった人間だ。
が、その頃は持病のメニエール病が悪化していたらしく、
働くのが困難になっていた。
「お金を…」とせがまれることが多かった。

生まれた頃から実家は某カルト宗教団体にはまっている。

多忙な時期に、知らないおばさんが家を訪ねては、
「ちゃんとあなたが信心しないから
お母さんこうなっちゃったのよ!」
「何もしてないんだからせめて祈りなさい!」
と一方的に好き勝手喋っていった。

53: >>1 2012/01/14(土) 10:24:02.72 ID:Bbhflozx0
私はどちらかと言えばキリスト教系の大学だ。
そのお陰で、入学時に
「あんたあんな大学に行くなんて地獄にいくよ」と
周りの信者に散々言われ、目が覚めた。

他人の努力を
勝手な偏見で野次るような宗教が誰を救うんだ。
認められたり、報われたりしないと
人間はやる気を杀殳がれる、とは知らなかった。

今思えば、もう限界が近付いていた。

55: >>1 2012/01/14(土) 10:36:00.01 ID:Bbhflozx0
顔色があからさまに悪くなっていたのだろう、
A君とおじさまには
「栄養が不足していませんか?」と度々気遣われた。

その心配さえ素直に受け入れられず、
「ダイエットをしているもので」と嘘を吐いた。

「無理なダイエットは宜しくありませんよ、
コラーゲンというものは
飲んで肌に作用するものではありません…
あ、キツければ授業減らしても構いませんからね?」

おじさまはやはり医者だ、と思った。

「大丈夫ですよ、本当にありがとうございます」
「せめて何か栄養のあるものを食べましょう、
今週末空いていますか?Aとお食事致しましょう」
「いつも連れていってもらってばかりなので忍びないです…」

言い終えた瞬間に綺麗なキッチンが目に入った。

「宜しければ、私に作らせていただけないでしょうか」

56: >>1 2012/01/14(土) 10:44:51.64 ID:Bbhflozx0
料理は好きだ、よく色んな人に振る舞ってきた。
最初こそ悲惨だったが、歳を重ねるにつれ、
「美味しい」と褒められるようになっていた。

しかし、
「本当に美味しいものを沢山食べることで舌を肥えさせると、
自分が料理をするときに決して不味いものは出来ない」
というおじさまの口癖がネックだった。

果たして、彼らの口に合うのだろうか?

「それはいいですね、じゃあお願いしましょう。
食材はこちらが用意致しますから何なりと仰って下さい」

58: >>1 2012/01/14(土) 10:53:43.54 ID:Bbhflozx0
週末ならレポートも終わっているし、バイトも多くない。
何とか彼らが喜んでくれそうなものを作りたいと切望した。
インターネットや本屋さんでレシピをみて回った。

翌朝、
「○○会長のお申し付けによりご連絡差し上げました」
と電話が入った。
案の定、例の「就労」だ。

60: >>1 2012/01/14(土) 11:02:28.62 ID:Bbhflozx0
「業務内容は幾つかありますので
ご自身が生活に差し支えのない程度に、とのことです」

ひとつ。
食品のモニター。食べて感想を送る、というものだった。

ふたつ。
送られてきた何らかの文書を英語と中国語に訳して返す。

みっつ。
定期的に送られるテーマに沿ってレポートを書く。
結構な量になるらしい。

ご覧の通り、
本来ならわざわざ仕事にしないようなものばかりだった。

59: 名も無き被検体774号+ 2012/01/14(土) 10:54:24.67 ID:JSKnzQxGO
追い付いた

>>1は今何歳?あと美人?

63: >>1 2012/01/14(土) 13:43:31.04 ID:Bbhflozx0
ありがとうございます。
今は22です。
私が美人かは分かりませんが
ネットやチラシ、ヘアカタログモデルをしてたので
何処かでお会いしたかもしれませんね。ご参考までに。

「では、二つ目でお願いします」
「翻訳業ですか?」

それが一番仕事っぽいと思えたからだった。
「ではこちらから契約に於いての書類を
発送させて頂きますね。
給料は恐らく歩合になるかと」

充分だと思った。

「ありがとうございます」
「こんなこと会長が言い出して、
びっくりしましたでしょう。
頑張ってくださいね」

64: >>1 2012/01/14(土) 13:47:09.36 ID:Bbhflozx0
学科が英語や中国語の専攻なので
それほど心配はしなかった。
訳なら腐るほどしてきた。
大丈夫だろう。

そして迎えた週末。

あろうことかおじさま達の前で、倒れてしまった。

65: >>1 2012/01/14(土) 13:57:25.03 ID:Bbhflozx0
酷い胃痛で目を覚ますと、
ソファーベッドに横たわっていた。

おじさまが冷静に対応してくれた、とA君に聞いた。
恐らく貧血だろう、とも。

「心配しましたよ、倒れちゃうから」
「ごめんね、A君お腹空いたでしょ」
「先生が元気なのがいいんです、食卓を囲む時は尚更」

まじまじとA君を見る。
よく見たのは初めてかもしれない。
…野球選手のムネリンとやらに似ているらしいけど、
テレビをあまり観ないから分からない。

「ありがとう」
そう言うと、
「先生の教えかた好きなんです」とはにかんだ。

68: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 14:53:47.96 ID:XJZmyDoz0
みなさまありがとうございます。
>>1です。
スマホの調子が宜しくないので
トリップをつけておきますね。

70: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 15:34:25.86 ID:XJZmyDoz0
「安静にしていてください」
おじさまが戻ってきた。

「ダイエット無理しすぎていませんか?」

おじさまは恐らく
ダイエットじゃないことに気付いていただろう、
A君の手前そう気遣ってくれた。

「今夜はどうぞお泊まりになってください。
ゲストルームが空いていますから」

「そうだよ先生、今日は無理しないでよ」

「ありがとうございます」

目の前の慈悲溢れる親子と会長。
彼らに会って、
沢山お礼を言えるようになったなぁ、と感じた。

71: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 15:46:40.73 ID:XJZmyDoz0
ゲストルームは二階の突き当たりにあった。
10畳ほどの洋室にだだっ広いクローゼットがあった。

ウォーキングクローゼットというらしい。
そんなものはテレビの所謂「セレブ」と
持て囃される人のみの所有出来るものだと思っていた。

最も、そういう番組を観ても、
セレブ、とは有名人という意味で
お金持ちを安直に表すわけではない、
なんてことしか考えられないくらい物欲もない。
なんならこの4畳ほどのクローゼットで生活出来そうだ。

元々二世帯住居にする予定だったらしく、
二階にもお風呂やトイレ、洗面台、
果てはキッチンまでも完備されていた。

時刻は21時をまわっていた。

73: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 15:53:58.27 ID:XJZmyDoz0
貧血のあとの湯船は良くない、
とのアドバイスでさっとシャワーを浴びることにした。

部屋に戻るとドアの前に、
アロマの加湿器が置いてあった。
丸い形状で、水が揺れ動くのを外
から眺められる構造だ。

置き手紙があった。
「お好きなフレーバーをどうぞ。お大事に。A」

箱の中にはラベンダー、グレープフルーツ、
グリーンティー、ラベンダーの香料である瓶が入っていた。

彼の精一杯の見舞いに、入れすぎだよ、と思わず笑った。

74: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 16:03:17.30 ID:XJZmyDoz0
朝は5時に起きて朝食を準備した。

5時半にはおじさまも起きてきて、
目一杯私の体調を気にしたあと、
ウォーキングに出掛けられた。

和食と洋食はどちらが良いか尋ねそびれたので、
どちらも用意した。
IHの三口コンロを使ったのは初めてだったが、
こんなに便利なのかと感動した。

散々お世話になっといて、
こんなことしか恩返し出来ていない自分に嫌気がさした。

75: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 16:13:36.19 ID:XJZmyDoz0
6時半頃、おじさまが帰ってきて、シャワーに向かった。
A君も着替えてリビングにやってきた。

「ご飯、先生が作ったんですか?!
もっと寝てて良かったのに…」

「こんなことしか出来ないからさ。
A君、昨日のアロマありがとう。快眠だったよ」

「よかった、何の香りにしました?」

「グリーンティー。
グリーンティーって香りがあるんだねぇ」

そうでしょ、とA君は嬉しそうに頷く。

「先生、あれ、あげます」

76: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 16:20:10.84 ID:XJZmyDoz0
ダメだよ、といいかけるより先にA君が言う。

「あれ、少し前に先生の為に買ったんです」

お年玉で情けないですけどね、と
A君が笑う横でそういえば、と思い出す。
あれ、新品だったような…

「先生に教えてもらい始めて、成績伸びたんです。
父にも誉められました」

「あれだけ努力できるんだから
私の力なんて微量すぎるよ」

「あれだけ努力してたのに今まで分からなかったんです、
先生のお力でしょう?感謝して当然です!」

うっ、と息詰まる。
この子は人を丸め込む天才なんじゃないか。

77: 名も無き被検体774号+ 2012/01/14(土) 16:43:55.08 ID:e1d5q4w20
Aめっちゃいい子だな

やっぱり育ちが良いからか…

78: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 17:06:19.55 ID:XJZmyDoz0
その日は10時からバイトがあったので、
朝食に箸をつけないうちに帰宅の準備をした。

おじさまにもお礼を言いたかったが、
噂通りおじさまの朝風呂は長い。
仕方ないので置き手紙をして家を出た。

駅まで送ってくれたA君は、ずっと
「如何に朝食が美味しかったか」を語ってくれたので、
気恥ずかしかった。

電車に乗って、戴いたアロマの箱を見つめる。
そういえ、10万円頂いても、
こんな小洒落たものを買う発想に至らなかった。
というか、相変わらず余裕はない。

自分の世界に全く違う色が加わっていく。
それが斬新で嬉しかった。

82: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 22:38:55.94 ID:lGcH2YLK0
倒れて以来、
自己嫌悪が脳内で犇めくようになった。

もう全て投げ出したい。
何もかもを捨てて旅でもできたら、と
憧れを抱くようになった。

一週間も経たない内に、
会長から書類が沢山送られてきた。
文章とは、小説だったり、エッセイだったり、
論文だったりとジャンルはバラバラだった。
共通して、あまり文章量が多くないことに気付いたのは、
それらを一週間余りで訳し終えた時だった。

83: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 22:56:22.54 ID:lGcH2YLK0
やりきった後の達成感は私を元気付けた。
データを送ると、秘書の方から
「会長が非常に喜んでいらっしゃいました」
と連絡がきた。

宗教のおばさんに言われた、
「あなたはなにも出来ない」
その言葉がずっと心に残っていたらしい。

私でも誰かの役に立ったじゃないか。
もう少し頑張ってみよう。
単純だけど心からそう思えた。

86: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 23:24:02.12 ID:lGcH2YLK0
会長からの給料は相変わらず破格で、
何だか済まない気持ちだった。
その後、お陰で免許を取ることが出来た。

それから少し経った頃。
樹木の葉は紅く変化し始めただろうか。

「先生、父が倒れたんです」
「こんな時間に非常識なのは承知しています、
すみません」

深夜にA君からの連絡を受けた。

87: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/14(土) 23:32:44.84 ID:lGcH2YLK0
飛び上がって、翌朝の授業の準備、
財布、携帯を持ってタクシーで病院に駆け付けた。
紹介がないと入れないという大きな総合病院のロビーに、
A君は佇んでいた。

「意識はあるみたいです、今原因を調べているようで」

流石に心細かったのか、落ち着きがない。

「…医者にかかっているからもう大丈夫だよ、
安心して待とう。一緒にいるから」

こんな言葉がやっとだった。

89: 名も無き被検体774号+ 2012/01/14(土) 23:51:37.19 ID:JSKnzQxGO
医者も会長もバツイチ?

92: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 02:38:18.58 ID:YI1wbszN0
会長さんの奥様はご健在でした。
おじさまの奥様は
ずっと昔にお亡くなりになったそうです

「医者でも医者にかかるんですよね」
A君は当然か、というように項垂れる。

先述の通り彼には母親がいない。
唯一無二の肉親だ、と聞いていた。

深夜のロビーで二人、ただ待つほかなかった。

93: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 03:57:10.54 ID:Os9bEXgN0
どれくらいの時間が経ったのか。
意識しない内におじさまの担当医とおぼしき
男の人がA君を呼び出した。

戻ってきたA君を前にして、病状は聞けなかった。

「暫く入院だそうですが、
ひと安心と言ったところです。
呼び出してすみません」

あまりにも気丈に振る舞うから
子供扱いをするのは気が引けた。

「いいよ、寧ろお世話になってきたから
今度こそは私が手伝いたい。何か出来ないかな」

これならきっと彼の自尊心を傷付けないだろう。

「先生」

少し考えて彼は答えた。

「じゃあ家事を手伝ってくれませんか?」

94: 名も無き被検体774号+ 2012/01/15(日) 04:56:11.19 ID:ux0bAv670
漢字が古いなw
あと、英語と中国語専攻もないわけじゃないが
専攻はどちからが多い

96: 名も無き被検体774号+ 2012/01/15(日) 05:08:33.57 ID:9nxepsWuO
上智か

97: 名も無き被検体774号+ 2012/01/15(日) 06:34:08.56 ID:MhZKUNQY0
同志社だと思った。

99: 名も無き被検体774号+ 2012/01/15(日) 09:43:22.51 ID:w40Qb8+t0
立教、ICU、上智あたり?

100: 名も無き被検体774号+ 2012/01/15(日) 10:16:38.40 ID:Lpx7UCCQ0
>>99
いや、早慶に旧帝大って可能性だってあるぞ

102: 名も無き被検体774号+ 2012/01/15(日) 10:57:44.88 ID:0cvdi4d3O
22歳ってことは今まだ大学生だから特定はやめとけ
それに英語が第一外国語で
中国語が第二外国語だとすると可能性は無限に広がる

106: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 14:10:04.13 ID:Y/WmB/Y+0
「僕の家母がいないから
少しでも手伝っていただけたら嬉しいです」

A君は続ける。

「ダメならいいんですが、
父の様子も部活もあるので全部は…。
バイトって形でいいから住み込みでお願いしたいんです」

「全然構わないよ、無償で」

大学もあらゆるバイト先もA君の家からの方が近かった。
今まで一時間半かけて実家から大学に通っていたから、
好都合な提案だった。
何より、恩返しが出来る気がした。

108: 名も無き被検体774号+ 2012/01/15(日) 14:22:00.31 ID:XwVms9eDO
なんかスレタイにA君抜けてるぞ

良スレだな

109: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 15:57:00.88 ID:Y/WmB/Y+0
ありがとうございます(`;ω;´)
A君、迷いました;


大学から帰宅して、
着回せそうな服と簡単な荷物を
キャリーバッグに詰めて出発した。
無意識でアロマも持っていた。

会長からの仕事も怠らないように
ノートパソコンも持った。
入学時に「大学生なら要るでしょう」と
唯一買って貰った宝物だ。

家に着くとA君は既に帰宅していた。

「これ、鍵です。
先生の部屋は以前使って頂いたところでいいですか?
必要そうなものは置いておきましたが
他にあれば何でも仰って下さいね。
あ、22時以降は用事があれば電話しますね。
荷物運ぶの手伝います」

捲し立てたのは彼なりの気遣い。
くすりと笑った。

「これ、持ってきてくれたんですね」

115: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 18:14:39.33 ID:x9NVCMyQ0
アロマは、私の中の違う世界の象徴だと思った。
今までの生活を変えられるような気分になる。

今までの生活が嫌いな訳ではない。
でも、周りの子達のように
少しでいいから自分のために
思いっきり時間を遣ってみたい。

そんな、誰にも言えない内に秘めた
モヤモヤを形成したようなお守り。
もう少し頑張って、
頑張った先でこの生活を必ず変えてみせる。

アロマを焚くとそういった不思議な気持ちになった。

A君とおじさまに与えて貰った勇気だ。
ここでの生活は手を抜くことなく尽くそう。

そう決意してゲストルームに入った。

120: 名も無き被検体774号+ 2012/01/15(日) 18:50:29.54 ID:vKdDUwtO0
本当にこんな真面目で素直な人っているのかなぁ・・

>>1の心の中には黒い部分、
例えば他人の失敗を非難する所とかない?

122: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 19:11:18.86 ID:x9NVCMyQ0
>>120
非難する余裕がなかったんです。
自分のことで必タヒで、他人に構ってられないというか。

ものが無いのは当たり前、
他人と自分は違うって早い段階で気付いていたから
羨むこともなかったです。
今思えば諦めに近いですね。

121: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 18:57:30.51 ID:x9NVCMyQ0
改めて見渡すと、
部屋には学習机の上にデスクトップのパソコン、
テレビ、ベッド、ソファーと
文句のつけようがない家具が揃っていた。

荷物を整理すると時刻は17時を指していた。
A君はお見舞いなのか、出掛けて居なかった。

私もお見舞いに行きたかった。
が、血の繋がりのない自分がしゃしゃりでるのはな、
と思い留まっていた。
まだ暫くは安静にしていないといけない筈だ。
気を遣わせるわけにはいかない。

お風呂の掃除と準備を済ませて夕食作りに取り掛かった。

レストランのようには無理だけど、
ハンバーグとサラダ、コーンスープを作った。
工程が簡単だったからすぐ終わった。

ハンバーグが焼ける頃にA君が帰宅した。

123: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 20:02:08.14 ID:x9NVCMyQ0
「やっぱり>>1さんに頼んで良かったです」

夕食を食べながらA君が言う。

「本当はお手伝いさんを頼もうと思ってたんですけど
打ち解けていない人が家をうろうろするのに抵抗があって」

人懐こい印象のA君からそんな言葉が出るのは意外だった。
…思春期だし当然か。

「家庭教師、今まで通り教えてくれますか?
家事頼んでいるから何か頼みすぎてるような」

「えっ、どんどん頼ってほしいよ。今まで通り頑張ろう!」

君なら私が居なくてもやれそうだ、とは口にしない。

「典型的だけど、
やっぱり僕医者を目指そうと思います。
これからもご指導宜しくお願いします」

良い子だな。本当に良い子だ。
「A君家のような家庭でも幸せだっただろうな 」
ポツリと本音がでた。

125: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 20:44:57.77 ID:x9NVCMyQ0
「父が、"この家を自分の家だと思ってほしい"
と言っていました。僕もそう思います」

「図々しいかもしれないですが、弟と思って下さい。
僕達は家族みたいに先生を思っていますから。」

これまで淡い失恋で涙することは確かにあった。
けれど、割と楽観視して生きてきたから
辛くて泣くことは殆んどなかった。

「先生!何で泣くんですか!」

慌てたA君の声で気がついた。
私は初めて嬉しくて泣いていた。

126: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 20:58:43.68 ID:mOX5Y/SB0
家族が増えた気がした。
心の底では今までだって
家族のように思っていたのかもしれない。
気持ちが通じあったような気分になった。

「私がお姉ちゃんだったら…スパルタ教育だよ」

「今と何が変わるんですか」

「えっ、スパルタだっけ?!」

「冗談ですよ」

目が合ってお互い吹き出した。
こんなに自然に笑ったのは久しぶりかもしれない。

130: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 22:06:27.71 ID:CwO4o7iH0
家事にバイトに学校と充実した日々が始まった。

家族には定期的に会いに帰った。
お金さえあれば母が家事をする。
あなたはバイトと学校に精を出して、
と言われたので後ろ髪ひかれることなく集中した。

もっと本音を言うと、宗教のおばさん達が
毎晩のように野次に来ていたので逃れられて良かった。
おばさん達は、私だけは許せなかったようだ。

そんなとき、会長から一通のメールが届いた。

「どうしていますか?
貴女の 学校付近に 立ち寄る用事が 出来ました
ランチでも 如何ですか。」

134: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 22:47:26.47 ID:CwO4o7iH0
家事とバイトを優先させたかった私にとって、
ランチのお誘いは好都合だった。
それなら時間を削ることがない。
是非、と誘いにのった。


あっという間に当日はきた。
その日は丁度午後からの授業が休講だった。
指定された待ち合わせに向かう。

「!」

相変わらず派手な会長がそこにいた。

案内されたのはイタリアンレストランだった。

「さ、好きなもの何でも頼んで」
「…」

「美味しい、
こんな美味しいお店知ってるなんてグレイトー!
って言われるのが嬉しいんだよ」
「それどこのお姉ちゃんに言われたんですか」

笑って言うと会長はいつものように豪快に笑った。

136: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 23:08:56.18 ID:CwO4o7iH0
濃い一時間半だった。
近況を軽く話すと、
「そうだったのか」と会長は考え込んだ。

「仕事の期限はいつでもいい。
どれだけ提出が遅れても、
給料だけは毎月きちんと払うことも約束するよ」

冗談好きな会長が真面目な顔をする。

「だから、今はその人達の為に尽力するんだよ。
何かあれば必ず助けるから
…君が誰かの役に立ちたい、と思う
その気持ちは貴重なものだ。
尊重するんだよ。決して無理はしないように」

その言葉だけで嬉しかった。

138: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 23:30:32.85 ID:CwO4o7iH0
暫くして、
おじさまが面会出来るようになったと聞いた。
すぐさまA君と病院に向かった。

来てくれてありがとう、
こんなところを見せるのは恥ずかしいな、
とおじさまは笑った。

「大した病気ではないが、私も歳だから
あと1ヶ月は入院せざるを得ないだろう」

言葉を探すうちにおじさまは

「家のこと、すみませんが頼みます。
お金はAが把握しているので好きに遣って下さい。
贅沢していいんですからね。
家のものも全て好きにしてくださいね。」
と続けた。

139: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/15(日) 23:46:15.18 ID:CwO4o7iH0
贅沢なんて仕方が解らないからしないだろう。
でも今はおじさまの気遣いを無下には出来ない。

「…お部屋、更にピカピカにして待っていますから
楽しみにしていて下さいね」

「それは楽しみだね、早く退院しないと」

少し痩せた気がしたが、顔色が良かったので安堵した。

141: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 00:26:28.75 ID:Zn/VqWIC0
帰り道。

>>1さん、たまには僕を頼って下さいね」

今、不安なのはA君の方だろう。

「もう十分頼っているよ」

「僕は弟ですよ、遠慮したら怒りますからね」

優しい弟を持ったな、としみじみ感じた。

142: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 00:55:44.89 ID:Zn/VqWIC0
15日までに終わらせたかったのに、
自分がこんなに打つのが遅いなんて。
長引いてごめんなさい。

難なく日々は過ぎていった。
あれから会長とは頻繁にメールで近況をやり取りした。
A君は模試で校内2位を取った、
先生のお陰だ、と言うから二人ではしゃいだ。

ただのゲストルームは気がつくと
>>1さんの部屋」という札が掛けられていた。
可愛いウサギの飾り付きだった。

「これA君が作ったんだよね、ありがとう!」
「サンタじゃないですか?」
「まだまだサンタのおじさんは準備中だよ」
「じゃトナカイかも」
「素直じゃないやつめ…
この家には随分サプライズ好きなトナカイがいるものだね」
「…」

そうこうしている内に、
おじさまはあと2週間で退院というところまで快復した。

144: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 01:24:27.30 ID:IfvPzF4o0
A君は食べ盛りなので、
これまでご飯が進むような料理を振る舞ってきた。

だけどおじさまが帰ってくるとなったら、
食事は第一に気を付けなければならなくなる。
糖尿病の人向けのレシピ本を見付けたのでそれを購入した。
併せてネットでも情報収集を欠かさなかった。

大学や高校時代の友達は私の状況を把握している。
無理に遊びに誘わないどころか、
病気の方でも安心して食べられるレシピを
たくさん教えてくれた。

2週間、練習しよう。
美味しい料理を作ってA君と待っていよう。

145: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 02:01:12.43 ID:xyrkdJJNO
贅沢のし過ぎで糖尿病ww
悪気がある訳じゃないので悪しからず。

自分のペースで書いて下さいな。

147: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 02:19:18.22 ID:IfvPzF4o0
糖尿病の患者さん向けのレシピを
参考にしていただけで糖尿病ではないです。
言葉足らずでしたね、気を付けます。


恐らく味は薄くて物足りなかったであろうご飯も
A君は文句ひとつ言わずに平らげてくれた。

もうすぐこの生活が終わる。
変化を挙げるとしたら、
A君とは軽口を叩けるような間柄になっていた。

A君の部屋は一階にある。
ドアには私が作ったネームプレート。

もうすぐ、これを毎日見ることはなくなる。
少し寂しくなっている自分がいた。

148: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 02:52:10.46 ID:IfvPzF4o0
二人での生活も残り1週間。

講義も終わり、家でレポートと
A君への抜き打ちテストを作成している時だった。
時刻は16時を過ぎていた。

突然、インターフォンが鳴った。

モニターで確認すると、
名門と呼ばれる高校の制服を着た女の子が立っていた。

「A君と約束している者です。
A君に家で待ってるように言われたので通してください」

即座にA君に電話したが、繋がらない。
相手は高校生の女の子、
外で待たすわけにもいかない、か…?
確認がないので気が引けたが、
こんな女の子が何か出来るとは思えない。
仮に何か起こったなら、全力で責任を取ろう。…
一応ペットボトルを護身で持っておこう。

葛藤してドアを開けたら、
倖田來未さんのようなメイクを施した
お洒落な女の子が入ってきた。

150: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 03:37:59.55 ID:IfvPzF4o0
心なしかいい香りがする。この香りは知っている。
クロエ?とかそういう名前の香水だ。多分。

「お邪魔します」

深々とお辞儀をし、靴を揃えて入る。
偉いなぁ、と思わず感心する。

化粧の厚さはコンプレックスの厚さだと聞いたことがある。
顔立ちは整っている感じなのに勿体ないな、と感じた。
なんなら素っぴんでも可愛いだろう。

まじまじと眺めていると、
真っ直ぐこちらを見据えて彼女は言った。

「私、A君の元カノです」

151: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 03:42:35.14 ID:IfvPzF4o0
「A君はあなたのような
可愛らしくて礼儀正しい子と付き合っていたんですね!」

本当の姉のような心境だった。

「A君全くそんな話ししないから心配だったんですよ、
座ってお茶でも飲みましょう。
あ、お名前お伺いしていませんでしたね。
私は>>1と申します」

喋りすぎたようだ、彼女はぽかんとしていた。

152: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 03:45:00.59 ID:Jziw4MBI0
多分約束してないなww

153: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 03:52:25.92 ID:IfvPzF4o0
「私は…カナです」
「カナちゃん。
今日はA君とどんな約束をしていたんですか?」

カナちゃんは出したばかりの紅茶に砂糖を入れながら答えた。

「約束っていうのは嘘です」
「家庭教師さんに会いに来たんです。さぁくんに内緒で。」

「さぁくん?」
A君のことであるだろうが、
苗字も名前にも「さ」は付かない。

「周りの女子と被らない呼び方を適当に考えただけです。
さぁくんモテるから」

「そういえばA君(いや、さぁくんか)と
カナちゃんは違う学校だよね」

「電車で見掛けて好きになったんです」

カナちゃんは恥じらって頬を赤らめる。
乙女だな、とにやける。

154: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 03:57:47.85 ID:IfvPzF4o0
「それで…私に用事とは」

「その前に訊きたいんですが」

カナちゃんが紅茶を混ぜる。
ミルクが綺麗に溶けていく。
ケアしてある手先が美しくて、
吸い込まれるようにただ見つめる。

「さぁくんに惚れてないですよね?」

思いもよらない質問だった。
考えたこともなくて、言葉に詰まった。

一瞬の沈黙の中でカナちゃんの瞳は強気で、不安げだ。

155: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 04:05:18.26 ID:IfvPzF4o0
A君は本当に弟のような存在だ。
それに嘘はない。何に誓ってもいい。

「考えたことなくて吃驚した…」

素直にそう答えた。
カナちゃんは本当に?と言いたげな目で、
「それなら相談に乗ってくれませんか?」と続けた。

「よりを戻したいんです、
さぁくんの好みとか知りません?」

そうきたか、と呆気にとられる。
「好み?女の子の?」
「モノでも女の子でも…
簡単に言えばもっとさぁくんの理想に近付きたいんです。
あとプレゼント攻撃もしたい」

恋愛のれ、の字もかじれてない私の
小さな思考容量がフル活動しだした。

160: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 08:34:01.99 ID:vJsjlraN0
よりを戻す。言葉にするように簡単なことではない。
というか、よく考えたらそんな経験がなくて解らない。

「A君にはもう告白したの?」
「してないです、出来る雰囲気じゃないし」
「隣の高校だからよく色んなところで会えるけど、
さぁくん勉強ばっかり」

そう言って、長い髪の毛の毛先をくるん、と遊ばせる。

どこかで、
「女性が毛先をいじりだしたら貴方に気がない証拠だ」
と読んだ。そうだ、男性用雑誌だ。

確かにこの仕草は拗ねているように見えなくもない。

「さぁくん、
どこの大学目指しているんですか?私も頑張ろうかな」

163: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 09:26:14.79 ID:vJsjlraN0
いい兆候じゃないか、と微笑ましくなる。

「国立大って言ってたよ」
「え…猛勉強どころじゃないじゃん…」

カナちゃんの顔色がみるみる暗くなっていく。

「成績悪いの?」
勉強時間や方法まで詳しく尋ねたくなるのは、
家庭教師の性だろうか。

「成績は悪くないけど国立はどうだろ…」
「一緒に勉強しない?とか効かないのかな、
ベタだけどお菓子とか作って差し入れるとか…
あまりしつこくならないように適度に」

「それいいかもー!ナイスー!適度にね、覚えとこ」

A君のこと、本当に好きなんだな。
どうかこの可愛い子の恋が上手くいきますように。
嬉々としてプランを練るカナちゃんを横目にそう願った。

時刻は17時を回っていた。

165: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 09:49:10.06 ID:vJsjlraN0
確か、A君は19時に帰ると連絡があった。

「カナちゃんご飯食べていかない?
簡単なもので良ければ作るよ」

大したおもてなしも出来ないのはお手伝い、
…いや、姉として何だか不十分だ。

「ママに怒られちゃうからお気持ちだけで」

間髪入れずに断られる。
そりゃそうだ、流石に慮りに欠けたな 、と
一瞬でばつが悪くなる。

「でも」

カナちゃんが毛先をくるくるしながら言う。

「楽しかった。
今度はちゃんとさぁくんに許可を取ってきます」

「是非!」
…彼女として来てくれたらな、と静かに期待した。

164: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 09:45:10.85 ID:9EP9zgefO
他人の家の留守を預かってるんだから
家の人と連絡もとれないなら、
いくら約束したと言っても
家に上げるべきではないような・・・。

改めて来てもらうとか、
そもそも来客には対応しないとかするべきだったのでは?
でも読んでる限りでは、
人を疑う事を知らなかったんだろうね。


168: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 10:05:32.84 ID:6UK3llfl0
その通りです、猛省しています。
下記にもあるように
これがもし危険な人だったらと後悔しました。
思慮というのは付け焼き刃では到底出来ませんね


帰宅したA君に数時間前の出来事を話した。
秘密で、とカナちゃんは言ったけど、…そうもいかない。
カナちゃんにも後ろめたくて、ジレンマを感じていた。

黙って聞いていたA君は少し笑って
「知っていますよ」
と言った。

「なんだ、秘密のつもりだったのか。
昨日夕方会ったときに言われましたよ、
家庭教師さん見に行ってやるって。
どうせカナのことだから
実行するだろうとは思っていたけど」

「勝手にあげてごめんなさい」

「押し掛けたのはカナだから謝らなくていいよ。
ここは自分の家同然ですよ?
母さんが生きてたら多分、そうしてたよ」

母さん、と聞いて動揺する。
亡くなったと聞いてから一度も触れてこなかった話題だ。

169: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 10:36:57.80 ID:6UK3llfl0
A君はいつも気丈で、
人が自分に気を遣うことを特に嫌う。
先述のような失態を起こしても、
「自分の家同然でしょう」と然り気無くフォローをする。

私が1つの出来事をひきずる性格だと知っていて、
そうして場の雰囲気を悪くしないように
気遣ってくれるのだ。

「あ、でもどれだけサンタクロースみたいな人でも
それは開けちゃ駄目だからね」
「どういう意味でしょうか…」

そんな冗談も交えてきちんと諫めてもくれる。

私にはその懐の大きさは真似出来ない。
どっちが年上なんだ、しっかりしよう。
洗い物をしながら考え込んだ。

―母さん。

こんな良い子に育っているA君を産んだ人。
どれだけ素敵な方だったのだろう。
お会いしてみたかった。

174: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 11:20:38.94 ID:6UK3llfl0
街は様々な色の煌めきで溢れていた。
お店のポップは「恋人や家族」というワードが強調されて、
BGMはマライア・キャリーやワムが延々と流れる。

世間はクリスマスイブ。

贅沢は出来ないけど、
病気を患っていても食べられるレシピを探して
クリスマスらしい料理にした。

掃除をしても時間が余ったので、
まとめていた荷物を確認した。

「ただいま」

A君が嬉しそうな声を響かせる。

「本当に綺麗だ、ありがとうございます」

久しく聞けなかったこの家の主の声。

おじさまが退院した。


177: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 11:29:20.22 ID:V3VXR68R0
この手のスレって多いけど、
そんなに細かく会話等覚えてるもんかな?
多少は脚色あるとしてもさ。
何か目的ぐあって作られてる様な気がする
のは俺だけ?
中には事実ぽいのもあるけど。
ま、結果としては読んでおもしろきゃいいんだけど。

178:名も無き被検体774号 2012/01/16(月) 11:32:25.67 ID:a91amw98i
>>177
会話は何となくで書いてるんじゃない?

182: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 11:52:28.04 ID:hB4g8Ms60
おっさんの創作と思う。

184: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 11:56:24.62 ID:6UK3llfl0
私は細かく日記をつけていたので(非公開のブログですが)、
それを読み返しつつ会話を補完し書いていますよ。
案外覚えていないものですよね。
あからさまに印象を操作しかねない脚色は控えています。
また、特定されかねない情報は少し変えています。

おっさんか…おっさんと思ってくれていいです!


食事も終え、久しぶりに三人での団欒を迎えた。
実家はクリスマスを決して祝わないので新鮮だった。
(と言いつつ一番下の妹にはプレゼントを発送した)

「Aの成績がとても伸びたそうですね。
ひとえに先生のお陰でしょう。
ご迷惑はお掛けしませんでしたか?」

テーブルの向こうでおじさまがペリエを注ぐ。
おじさまは炭酸水が好きだとA君がよく話していた。
僕には分からない、とも。

「とんでもないです!寧ろ私がご迷惑をお掛けしました」

「先生のお陰で私も安心して家を開けられましたよ」

185: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 11:59:27.88 ID:hB4g8Ms60
>>184
ワムとか倖田來未とか
おっさんが知ってそうな芸能人しか出て来ないw
でもテレビ見ない人もいるしわからない。

186: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 12:11:51.61 ID:6UK3llfl0
バイトと勉強ばかりで
テレビに親しみなかったんです…(;;)
見てもお笑いとか映画だったし…
好きな歌手は浜田省吾さんだし
おっさんと思われても何も言い返せないです……
あ、阿部真央ちゃんが大好きです


「そんなことは…」
言いかけた途端、

「先生!」
後ろからA君が顔を出す。

「これ、僕と父からの感謝の気持ちです」
と、シックな小袋を差し出された。
振り返るとおじさまが微笑んでいる。

「!?」

言葉が出なかった。

188: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 12:20:07.48 ID:6UK3llfl0
「先生がご厚意でここまでしてくれたように、
これも見返りを求めないただの感謝の表れです」

「でも私何も用意していないのに受け取るのは」

私の心を読んだようにA君は続ける。

「忙しい中、料理に洗濯に掃除、
どこが何もしていないんですか!
僕達がしたくてこうしているんです。
遠慮しないで下さい」

「本当にいいんですか?」

「しつこい女の人はモテないですよ」

A君は相変わらずフォローがうまい。
お礼を言って受け取った袋からは少し重みを感じた。

192: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 12:46:36.15 ID:6UK3llfl0
「気に入るか分かんないんですけど」とA君がはにかむ。

ルイヴィトンと読める箱に、長財布が横たわっていた。
ワインレッドいうか、パープルというか。
照明の当たり方で微妙に見え方が変化する。
初めて出会った色だった。
アマラントというらしい。
艶々した生地は手触りがとても快感だ。

「…こんな素敵なものを戴いていいんですか?」

「使ってくれますか?」
A君が心配そうにこちらを窺う。

「当たり前です!家宝にします!」

おじさまがにっこり笑った。

お手伝いのバイト代なんて
受け取ってくれないでしょうから、と
二人で相談して財布にしたらしい。

私の世界に色がまた1つ増えた。

195: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 12:59:58.14 ID:6UK3llfl0
財布を開けた右上に、
私の名前のイニシアルが入っていた。
それを確認して改めて家宝にしよう、と本気で思った。

後にも先にも…先のことは分からないけど、
今のところは、
ブランド品と呼ばれるものはこれしか持っていない。
他には要らないし、買うこともねだることも絶対にない。
今は背伸びしているけど
この財布の色に見合った女性になろう。

いつか二人と、
そして会長さんと会えなくなってしまっても
私が傲慢になって怠惰にならないように、
この気持ちを忘れないように、
この財布は肌身離さず持ち歩こう。

じんわり暖かい気持ちを涙に変えないように、
堪えるのは大変だった。

199: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 13:19:29.26 ID:6UK3llfl0
めでたいクリスマスイブを最後に、
私と素晴らしい高校生との共同生活は終わった。
まだいていいのに、と二人には引き留められたけれど、
親しき仲にも礼儀あり。
これ以上二人の時間を邪魔できない。

翌朝、朝食を一緒に摂って、彼らにお礼を言った。

どれだけお礼を言っても言い足りないくらいだ、と言うと
「先生、家族に何をそう気を遣っているの、
小さい頃はサンタクロースが来るもんだよ」と
A君に頬をつつかれた。

「私もう成人しているんだけどなぁ」

「…トナカイからのプレゼント忘れていません?」

A君が例のネームプレートを手渡してくれた。

200: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 13:27:57.40 ID:6UK3llfl0
「これはどうしたの」
おじさまがにこやかに訊ねる。

「A君が作って下さったんですよ」

「ほう、幼稚園の頃から
手先は器用だと思っていたけれど…
これはすごい完成度じゃないか?」

おじさまが目を丸くしてプレートを眺める。

「ただ勉強の気分転換に
既製品をボンドで繋ぎ合わせただけだよ、
父さんならうさぎごと作っちゃうだろうけど…」

A君が恥ずかしそうに説明する。

201: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 13:42:45.30 ID:6UK3llfl0
身近なトナカイからのプレゼントも
鞄にしまって帰路へ就いた。

電車のなかでデジャブだ、と考えた。
アロマの時も、今も。
戴いたのは 物だけじゃない。

デートであろう、寄り添う周りのカップルを見渡して
財布に視線を落とす。
こんなに温かくて不思議な気持ちになったことは
今までたったの一度もない。
大切にされている実感というのだろうか。

血の繋がらない「他人」を「家族同然」だなんて。
この見えない信頼関係を絶対に壊したくない。
あの親子と会長には自分なりに一所懸命に尽くしていこう。

武士ってこんな忠誠心だったのかも、
いや比べ物にならないか、とのんきに考えていたら、
乗り過ごしてしまった。

204: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 14:03:40.55 ID:6UK3llfl0
久しぶりに実家に帰る。
ドアを開ける。玄関には知らない靴が
2、3足並んでいた。

何故だか分からないけど身震いがした。
理由はないけど、
ここにいてはいけないと本能が察知している。

「帰ったの?」
母が顔を出す。
「どうしたのその格好…」
なにやら正装だ。

205: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 14:11:54.07 ID:6UK3llfl0
居間の戸をひくと、知らないお婆さんとお爺さん、
それに母よりは若そうな男性が
背筋を伸ばして正座していた。

それに、母方のおばあちゃんまでいる。
一斉にこちらを見るものだから、少々怖じ気つく。
雰囲気がものものしい。

「初めまして…」
挨拶もそこそこに、
突然スーツ姿の男性がこちらに居直す。

「突然ですみません。
私はお母様とお付き合いさせて頂いている者でTと申します」

「今日は、お母様と結婚をさせていただきたくて
こちらに参りました」

206: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 14:14:43.86 ID:76qXjsSGi
衝撃の新展開キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!

207: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 14:19:38.50 ID:6UK3llfl0
「おかあさん…いつから?」
「二年くらい前かな」

妹達は知っていたらしい。
私は全く知らなかった。
私はここ数年間、殆ど家には居なかったから
知るわけがないんだけど。

「もう>>1ちゃんにも私にも
金銭面でも苦労はさせないって言ってくれたの、
再婚だから慎重にいきたくて2年も待たせちゃった」

母が俯く。
「今までよくやってくれたね…」
ポツリと溢した。

母の口から初めて聞いた労いの言葉だった。

211: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 15:26:04.63 ID:6UK3llfl0
信じられなかった。
母の幸せそうな顔を見て、反対なんて出来ない。

「私が先にタヒんでも、あ
なたたちの世話をするってプロポーズしてくれたのよ」

もう私も大人だから母の決断に口出しはしない。
心残りがあるとしたら…
一瞥をくれると、妹達は目をキラキラさせて喜んでいた。

「おじちゃん、お父さんになるの?」

―きっと彼なら、幸せを与えてくれるだろう。

「よろしくお願いします」
頭を下げた。

家族に、父が加わった。

この日までを振り返り、
漫画のようだと友達に話したら、
「事実は小説よりも奇なりって本当だよね」と唸った。

212: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 15:47:21.41 ID:6UK3llfl0
お正月はA君とカナちゃんと近くの神社で初詣に行った。

年末、最後の授業で
「先生、初詣に行きませんか」
とA君に誘われたとき
「カナちゃんも一緒に行かない?」
と返しておいたのだ。

「せんせー!二人っきりじゃないなんて
気が利かないじゃん!」
カナちゃんが拗ねたように口を尖らす。

「あ…!本当だ、ごめんね」

「ふふ、ウソウソ!先生に会えて嬉しいよー」
可笑しそうにカナちゃんが私の腕に絡む。

二人は受験の一年を迎える。

帰り際、カナちゃんは
A君と同じ大学の違う学部を受けることにしたと
こっそり耳打ちしてくれた。
まださぁくんには言わないでね、との言葉も添えて。

213: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 15:55:46.90 ID:6UK3llfl0
おじさまと会長には年賀状を出しておいた。

会長からは
「お年賀 有り難う 昨年は 楽しかった です。
また 近々 お食事にでも 行きましょう。
紹介したい 人が います」
とのメールが届いていた。

その年から、一人暮らしを始めた。
これからは働いたお金は自分のためだけに遣って良い、と
何度も念を押されたので学生の内は素直に従うことにした。

それぐらいしてもバチは当たらないよ、と祖母に言われた。

214: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 16:10:30.61 ID:6UK3llfl0
一人暮らしを始めた理由はいくつかあるが、
私がいると義父が遠慮しかねないということが
大部分を占めていた。
家族なんだから、気兼ねなく暮らしてほしい。

私は元々家を空けることが多い。
居酒屋や24時間体制のバイトの関係で
夜中に帰ることも多々あった。

家族の生活リズムを考えると、
この選択でいいのだろうと考えた。

私と義父は、ゆっくり打ち解ければ良いだろう。

217: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 16:24:09.22 ID:q3SD1qW40
なんか出てくる人が善人ばかりで逆に怖い。
なんて思う俺

悪人ってカルト宗教のご近所さんだけかw
俺もカルト宗教には拉致されたり父親他界したとき
母親がご先祖様がー攻撃受けてるけど。

219: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 16:36:22.03 ID:6UK3llfl0
確かに、偽善じゃないか?と私も怖かったです。
最初は裏があるってずっと疑っていました。
今でも、どうしてあんなに
自分に良くしてくれたのか解りません。

そんなことがあったんですね(;;)
今、>>217さんが平穏に過ごせています様に。

221: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 16:46:52.33 ID:q3SD1qW40
>>219
ああwわざわざレスありがとう。
俺のも相当前の話で過去形なので今は全然平穏です

続き楽しみにしてます。

218: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 16:29:15.03 ID:6UK3llfl0
2月。
ようやく会長と夕食をご一緒する機会が出来た。

「そう!丸く収まったんだな!よくやった!めでたい!」

ハッハッハ、と笑って会長はワインを飲み干した。
私の手元には白桃で割ったシャンパン。
お酒が弱い私のために、
白桃を強めに作ってくれたオリジナルシャンパン。

「それで紹介したい人には会ってくれるかな?」

222: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 16:50:30.01 ID:HiYETvKK0
二週間後、会長からチケットが送られてきた。

「会ってくれるかな?」

詳細を尋ねると、
どうやら三十代半ばの女の人だということが分かった。
バックパッカーで、四か国語を話すらしい。

「会ってみたいです」

私とは縁遠いタイプの人だ。
きっと、この機会を逃せば二度と知り合えない。

「よしきた!その女性のアドレスと番号はこれね。
向こうの了承済みだから。
不安ならこれ、スカイプ?のアカウント?だそうだ。」

会長がそわそわしながら手帳を取り出す。
一枚のメモに筆ペンでいろいろと書かれている。

会長の表情の変化は目まぐるしくて、見ていて面白い。
歳だとは思えないくらい、彼のペースは勢いがある。

「明日3月の休みを秘書に教えておいてね。
チケットを送るから」
「…チケット?ですか?」

「そう。パスポートは持っているね?」

224: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 17:11:28.56 ID:HiYETvKK0
行く機会がない割に、
パスポートはちゃんと持っていた。
数年前に授業の関係で
韓国に行くために作成しておいたものだった。

相手の人はエイミーと言うらしい。
出発までの一ヶ月弱は、通話やチャットを重ねた。
時差があるのでメールのやり取りが一番多かった。

手ぶらでいいよlol、なんてメールも
エイミーさんから言われると説得力がある。
エイミーさんはそんな気さくな人だった。

バイトや家庭教師は正直に話して
日程を調整してもらった。
A君とおじさまからは「楽しんでおいで」と
まるで自分のことのように楽しみにしてくれた。

そして、その日はきた。

228: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 17:46:51.30 ID:HiYETvKK0
当日、会長に土下座する勢いでお礼の電話をした。

「ははは、隠しおって」
会長の第一声はこれだった。

「?」

「1月。誕生日だったろう?
履歴書を見て以来覚えていたんだよ。
僕も言うのをすっかり忘れてたけどね。
おめでとう。この旅は僕からのプレゼントだ」

あえて教えなかったのに。
会長もきっとわざと
このタイミングで教えてくれたのだろう。

「Have a good trip!」

こんな人が本当にいるなんて。
神様、仏様、閻魔様。
こういう運命に導いてくれた何かがあるのなら、
全力でお礼を言いたい。
この先は、私が誰かを助ける側にならないと。

229: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 17:52:42.09 ID:HiYETvKK0
成田空港で迷うのが一番不安だった。
その為、下調べを何度もしてこの日に備えた。
当日は容易に搭乗手続きまで済ませられた。

行き交う人々と飛行機に想いを馳せる。
皆それぞれ目的の場所があって、
言葉にし尽くせないほど
様々な感情を抱いてここに集っている。

無表情に歩いているあそこの綺麗なお姉さんだって、
内心何らかの感情に満ちているはずだ。

…そんなの、どこにいても一緒なんだけど。
空港という場所は殊更新鮮にそういう気分にさせてくれる。

230: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 18:08:12.09 ID:HiYETvKK0
約半日のフライトを経て、
私はとうとう憧れのニューヨークという地に立っていた。
ケネディ空港から
イエ□ーキャブでマンハッタンまで向かう。
女性が一人でマンハッタンまで来るのは心配だから、
とエイミーさんからの指示だった。

当たり前だが、流れる景色は、
東京や大阪や福岡…日本のどの地とも全く異なる。
建物が高くて、道路も横に広い印象を受けた。

232: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 18:14:28.73 ID:HiYETvKK0
ボキャブラリーが感情を凌駕することは、永遠にない。
建物や道行く人、看板、
どれをとってもしっくり当てはまる言葉が浮かばない。

「暑い」や「寒い」といった
本質的でシンプルな言葉しか発することが出来なかった。

たくさん浮かれよう、と決めてキャブから降りた。

233: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 18:25:36.08 ID:HiYETvKK0
多分、この日マンハッタンにいた誰よりも
私は小躍りをしている。

待ち合わせのハードロックカフェ付近でそう確信していると、
目の前のブロンドのご婦人が
バレエのダンサーのように高く脚を挙げてくるくると回った。

驚いて凝視していると、そこに一台のタクシーが停まった。
するりと乗り込む小太りのご婦人。

誰かがブラーボ、と歓声を浴びせた。

235: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 18:29:49.31 ID:rTkqtjx10
>>1は会長に凄く感謝しているんだろうけど
年齢は分からないけど
爺ってジジイ呼ばわりしてるのがw
お爺さんとか初老とかにして欲しかったな

236: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 18:34:39.82 ID:HiYETvKK0
本当だ、爺様の様が抜けてましたw
私ひどい

242: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 19:36:38.38 ID:ievvr5Gq0
>>1ちゃーん!」

エイミーさんだと名乗る女の人は、
私のイメージ通りの人だった。

健康的な色黒で、体の線はすごく細い。
黒くて長い、軽くウェーブのかかった髪に、
クッキリした目鼻立ち。

ダブル(ハーフ)の方かと思った。
後に、長谷川潤さんに似ていると気付く。

「初めまして!よく来たねー!
さ、ご飯行こう、お腹空いたでしょ?」

ちょっとハスキーな声も素敵だ。
モデルさんのように髪をかきあげて、
エイミーさんが歩き出した。

244: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 19:56:42.38 ID:ievvr5Gq0
エイミーさんが教えてくれたのは、
オープンカフェ。
お薦めのハンバーガーを頼み、向きなおす。

「改めて…初めまして、エイミーです。
本名はアミなんだけど、
エイミーで定着しているからエイミーでいいよ!」

ハスキーボイスに訛った日本語が心地良い。

「初めまして、>>1です。」
とは言ったものの、
沢山メールでやり取りしたから
不思議と初めまして、な気分じゃない。

「会長さんから色々聞いたよー大変だったんだって?
頑張りやさんのご褒美だと思って
ニューヨーク楽しんでねー!」

いしし、というようにエイミーさんが笑う。

245: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 20:40:28.76 ID:ievvr5Gq0
「私、亡くなったアヤちゃんの親友なの。
それにしても似てるねー、懐かしくなるよ」

会長の娘さんの、と相槌をうつ。
エイミーさんは嬉しそうに頷く。

その時、ハンバーガーが運ばれてくる。
「さっ、食べて食べて!」
尋常じゃない量のポテトに驚きつつ、
ハンバーガーをつついた。

今まで旅した国のことを聞かせてほしいとせがんだら、
嬉々として語ってくれた。

248: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 21:03:59.60 ID:ievvr5Gq0
インドでお腹を壊した話。
ジャマー・マスジットという寺院の逸話。
タイの水上マーケットの仕組み。
ロンドンのタワーブリッジの夜景。

興味深く一通り聞き終えると、食事は終わっていた。
店を出て、ストリートを歩きながら話す。

「いいな、私もバックパックとまではいかなくても
色々行ってみたいです」

エイミーさんはにっこり笑って親指を立てる。

「goood!大切なのは好奇心と時間だよー!
お金なんてどうにかなるんだから、
度胸があるなら行動あるのみだよ」

249: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 21:06:00.73 ID:DuIcC1DH0
>「>>1さんに似てるだろう?」
>鏡を覗いたかのようにそっくりだった。

> 「君がそんなこと知っていたら警戒しちゃうよ。
>生きてなくとも自慢の娘なんだ。別嬪だろう?」


>>1さんは、別嬪さんなんですね

252: 名も無き被検体774号+ 2012/01/16(月) 21:25:58.78 ID:kUq+0QzSO
全てが創作なんだろうと思う自分は年をとりすぎたか

253: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 21:33:32.25 ID:ievvr5Gq0
べっぴんさんの下り、
本当なのに誤爆感…何と説明したら良いのか…
あくまでも私は似ているだけですよ

読んで下さる方がいるのが嬉しいです

我ながらネタくさい経験だと自覚しているので、
創作と思って頂いても構いません。

それでも読んでいただいてありがとうございます

261: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 22:11:59.03 ID:BxuCe5dq0
「今の時間は今にしかないよ!」
背中をぽん、と押されるような一言だった。

考えてみれば、今までお金はどうにかしてきた。
今度からは自分のためにどうにかしてみよう。
できるはずだ。
想像すると、その労力も含めて
キラキラしているような気がした。

ふとあの日のアロマを思い出す。
正しく、あの時に誓いを立てた決意は叶いそうじゃないか。
…それも、自分次第で。

そうだ、A君とカナちゃんには
アロマオイルを土産にしよう。

エイミーさんは
「ね?あ、コーヒーどう?スターバックスには困らないよー」
と吸い込まれるように店内に入っていった。

急いで後を追う。

265: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 23:24:25.08 ID:OMIUb7G+0
エイミーさんは自由奔放な人物だった。
といっても、決して人を不快にしない気儘さだ。
涼やかな風のような人だった。

相手が自分にない要素を多く持つほど
人は強く惹かれるらしい。
本当にその通りだと思った。

いつかこんな人になりたい。
どれだけ時間がかかっても。

少しでいいから、
エイミーさんのエネルギーを吸収したかった。

266: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/16(月) 23:57:36.99 ID:ievvr5Gq0
エイミーさんは三十代半ばに思えない程パワフルで、
足が疲労困憊しても、
「若いんだから次いくよー」と
楽しげに連れ回してくれた。

この旅行中は斬新な経験の連続で、
正直記憶が曖昧だ。

ハーレムにロックフエラーセンター、
メトロポリタン美術館、
ウォール街まで案内してもらった。

エイミーさんの説明は旅人視点で、
旅行本とは全く異なっていた。

「これ、何でしょう?」
「LOOK!これすごいでしょー?! 」
なんて交えながら話し進めていく。
それがとても魅力的だった。

そして、
可能な限りそれはもう膨大な量の写真を撮った。

楽しい時間との別れは本当にあっという間に訪れる。

267: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 00:11:35.89 ID:w2fZmXnS0
また来るんだよ、と頭を撫でてくれた
優しい人に未練を感じつつ、飛行機に乗り込む。

「楽しかったです」
「私も!久しぶりにあんなに動いたよー!」
「私より元気だったじゃないですか!」

ふふ、と笑い合う。

「帰国してもkeep in touch、だよ」

飛行機に乗り込んでも、
ハスキーボイスが脳に焼き付いていた。

絶対また会える。
そんな確信に近い自信があった。
中々会える距離じゃないのに、あまり寂しくなかった。

帰ったら真っ先にエイミーさんと会長に写真を送ろう。

268: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 00:33:32.99 ID:cP7+a87J0
旅行前に、会長が祝ってくれた通り
1月は私の誕生日だった。
少し遅くなったけれど20歳の自分と
21歳の自分を思い出した。

20歳の頃の自分は辛くて泣いてばかりいたなぁ、
なんてことは生憎ないが、
本心を言うならば、今の方が何だか自分らしい気がする。

何より、楽しいと思える。
だけど、どの日々も消すことは出来ない宝物だ。

一秒でも欠けていたならば私は限りなく傲慢で、
他人と自分を混同しかねない、
高飛車な人間になっていたかもしれない。

269: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 00:35:32.28 ID:cP7+a87J0
お金はなかった。
そして、所謂「お金持ち」と呼ばれる人達に出逢った。

彼らのお陰で、カナちゃんやエイミーさんのような
普段の生活では決して知り合えない人々とも交流を持てた。

彼らは揃いも揃って、
いくら払っても手に入らないものを与えてくれた。
それは温かい慈悲だったし、機会だったし、信頼だったし、
言葉に出来ないような未知の感情でもあった。

宝物がいっぱいに増えて、嬉しさで胸が苦しくなる。
思い出、アロマ、財布、そして沢山の写真。
何よりも背中を押し続けてくれた励ましの言葉達。

272: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 01:04:29.45 ID:cP7+a87J0
人間は追い込まれると、
目先のことに囚われて、動けなくなる。
本当に本当に脆くて、それでいてタフな矛盾した生き物だ。

もがき苦しんでいると、いつかは突破口が見えてくる。
確実ではないし、長い道のりに絶望して、
消耗しきってしまうこともあるかもしれない。
なんなら報われないこともあるかもしれない。

あの時は麻痺していたけれど、本当は羨んだかもしれない。
わがままに振る舞ってみたかったかもしれない。

でも、いいや。
生きていて良かった。
21年目で初めて心からそう思えた。

273: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 01:15:33.34 ID:cP7+a87J0
その後。

私が大学2年生の年に、高校2年生だったA君は
今、大学1年生だ。
志望していた国立大医学部に現役で入れたのは奇跡だ、
と喜んでいた。

カナちゃんは第2志望の学校に行くこととなったけれど、
A君の手をしっかりと繋いで幸せそうに笑っていた。

かつての厚化粧は、随分見る影もなくなった。

274: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 01:23:57.43 ID:cP7+a87J0
会長さんは相変わらず元気だけど、
そろそろ老後を楽しもうかな、と漏らしていた。

「女の子のたくさんいる国に行くのもいいな!」
「奥さまに怒られますよ」

目尻に思い切り皺を作って、それはいかん、と笑った。

恩返しをしたい、と何度も懇願したのに断られたまま
彼は奥様と海外に移住した。
とは言え、あと少し仕事をやりきるんだと張り切っていた。

276: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 01:34:23.76 ID:cP7+a87J0
おじさまは、再発することのないまま今も病院を営んでいる。

「最近テニスを始めたんですよ」
と、新しい趣味に精を出しているようだ。
「僕のテニス道具を持ち出したかと思ったら
ハマっちゃったみたい」
とA君は苦笑いをしていた。

時間が合えば、親子二人で打ち合っている。
「何だかんだ楽しそうだね」
「いい練習相手だね」
「さぁくん、超えられたりして…」
カナちゃんと二人で微笑ましく見守る。

家庭教師を終えても、お邪魔しては近況を語り合う。
何にも代えがたい愛しい時間は、
いつまでも、途切れない。

278: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 01:39:12.96 ID:cP7+a87J0
エイミーさんとは今もよく連絡をとる。
…と言いたいけれど、残念ながら今はご無沙汰だ。
ネットもあまり繋がらないような発展途上国にいく、
と言い残してそれきりだ。

facebookで極稀にアップされる彼女は、
ますます黒くなっていて、吹き出してしまった。
「帰ったら全部話すけど、それまでは秘密」
と焦らされている。

全く彼女には到底敵いそうにもない。

280: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 01:47:02.50 ID:cP7+a87J0
そして私の家族。

義父とはまだぎこちないけど、
漸く打ち解けてきた…かな?
私はそう思ってる。…そうだといいな。

母は相変わらずカルト宗教にはまっているけど、
産まれたときから信じているんだ、
今更誰にも変えられないだろう。

でもまぁ、他人に薦めてない内はいいかな、
と思うことにした。
カルトでも彼女が救われるなら、
それは一応宗教じゃないか。

今が一番幸せだと言っていた。
でも、その幸せは間違っても
なんちゃら先生のお陰じゃないと思う、とは言わない。

281: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 01:51:54.04 ID:cP7+a87J0
長いのにここまで読んで下さって
本当にありがとうございました。
作家志望でも何でもありませんので、
きっと何が言いたいのかは
最後まで不明瞭だったと思います。

何でもいいから
何かをぼんやり伝えられたらいいなーと思い立てました。

これで私の人生が変わる一部始終と
変えてくれた人達の話しは終わりです。

ありがとうございました(*・ω・*)

277: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 01:37:08.53 ID:DZySQopL0
前半読んでた頃は
密かにA君とくっついて欲しいと思いながら読んでたw
>>1は4年だよね。就職決まったの?彼氏はいる?

282: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 01:54:38.93 ID:cP7+a87J0
>>277
考えもしなかったです!

就職は、大きく分けると翻訳業といったところです。
色々あったけれど、
今は、器の大きい熊のような彼が居てくれています。

285: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 02:00:20.55 ID:97n3y2Ki0
かなりよかったよー
ほっこりするね!

288: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 02:03:24.12 ID:cP7+a87J0
>>285
そう思っていただけるなんて幸せです。
書いてみて良かった。
ありがとうございます!

279: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 01:41:37.51 ID:EYOS+eALO
>>1は作家志望なのかな?
小説臭くなってから一気につまんなくなったぞ
もっと頑張れ!

284: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 01:57:38.08 ID:cP7+a87J0
>>279
小説くさいなーと思って書いてましたw
途中で語り口調を見失いました…。
読んでいただいてありがとうございます。

283: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 01:57:31.17 ID:f9eonQHri
おわり?

286: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 02:01:15.49 ID:cP7+a87J0
>>283
最後の最後までドラマチックという訳ではないのが
私の人生に似つかわしいようです

290: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 02:07:50.22 ID:66YZrbtai
なんか最後ぐだったな
もっとおもしょい展開きたいしてたのにげんなり

294: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 02:13:22.77 ID:cP7+a87J0
>>290
ごめんなさい(;;)
確かに後半色々はしょりすぎたかもしれないです。
でも、最後まで見てくれてありがとうございました。

275: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 01:29:05.46 ID:w/rxjyL40
とんでもなくスケールのでかい話だなあ。

疑りたい気持ちもあるけど、
1から素直で純粋な雰囲気が伝わってくるから、
こっちもまっさらな気持ちで読める。
ありがとう

287: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 02:02:52.74 ID:hczTh9S/O
久しくすっごい楽しかった
なんかありがとう

291: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 02:07:51.19 ID:cP7+a87J0
>>275
>>287
ありがとうなんて、恐縮です!
こちらこそ本当にありがとうございました

289: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 02:06:02.18 ID:GVZ6gQ2kO
面白かった!
日本に帰ってきてから今までのことはなにかないの?

292: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 02:11:05.37 ID:cP7+a87J0
>>289
書くか迷ったんですが、
海外に一人旅を何度か経験しました。
エイミーナイズドが少し重症になったこと以外は
生活は大して変わっていませんよー

295: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 02:17:01.16 ID:ZlHCbFs50
おもしろかったー
久しぶりにほっこりした
1さんの性格がうらやましい
スキルあるから仕事もできたわけだし、
今無職の自分にはうらやましすぎるぜこのヤロウwww

297: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 02:39:18.18 ID:cP7+a87J0
>>295
無職って失うものがないから
何でもやれるって何かで見ました(`・ω・´)!
いつか天職に出会えますように。
ありがとうございました(*´・ω・`*)

296: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 02:31:19.85 ID:6PRFBfiP0
山も谷もないしつまらんかった!

でも良い人に会えてよかったね!

298: ◆bN5NHW/.U6 2012/01/17(火) 02:40:39.20 ID:cP7+a87J0
>>296
そういう竹を割ったような意見も大好きですよ、
読んでいただいてありがとうございました(*´∀`*)ノ゙

300: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 02:47:30.77 ID:IWz/UR2P0
面白かった~
俺も腐ってないでもう少し積極的に生きようと思えたわ
>>1ありがとう


302: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 03:02:53.07 ID:T3aYag/70
乙!

周りの人に助けられた話だけど、
全部
>>1の努力と人柄が招いた出来事だよね
これからは自分のために生きてね
それでもきっと支えてくれる人がいっぱい出てくるよ

303: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 03:10:56.64 ID:9IdwF4oh0
最後までお疲れ様&ありがとう!

とても貴重な経験で羨ましい
けど、それは今までの1さんの努力があってこそだよね
わたしも頑張ります!

306: 名も無き被検体774号+ 2012/01/17(火) 05:40:15.72 ID:nevn/i8w0
>>1がいい人だから
周りにいい人が集まるんだろうなと思う
温かいいいお話でした、お疲れ様です

引用元:http://toro.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1326448104/
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